学校ブログ

校長通信

高校卒業式 第109号

2022/03/03

行事

31日にご来賓、保護者の皆様のご臨席を賜り、雲雀丘学園高等学校第64回卒業式を挙行いたしました。卒業証書を授与しました64期生244名の卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。保護者の皆様、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。在学中はさまざまなご協力をいただきましたこと厚く御礼申し上げます。

卒業生の皆さん、これからいよいよ新しい生活に向けての第一歩を踏み出すことになります。これからの人生で嬉しい時、苦しい時さまざまな場面で雲雀丘学園のことを思い出し、機会があれば訪れてください。教職員一同お待ちしています。私のコロナウイルス罹患により卒業式に列席できず、副校長に代行をお願いしました。欠席は断腸の思い、私から卒業証書をわたせず、送り出すことができず申し訳なかったです。式後にオンラインにて双方向でメッセージを伝えさせていただきました。

以下、式辞「アリとキリギリス」の要旨です。

夏の日、キリギリスはバイオリンを弾き、歌を歌って過ごしていました。その一方で、アリは冬のために「今はたくさんあるけど、やがて冬になると食べ物はなくなってしまうよ」と食料を家に一生懸命運んでいます。キリギリスは「まだ夏は始まったばかり。楽しく歌って過ごせばいいのに」とアリをからかいました。冬になり、お腹がすいたキリギリスが「食料を分けてほしい」とアリの家を訪ねると、アリは「夏は歌って過ごしていたのだから、冬は踊って過ごせばいいんじゃない?」と扉を閉めて追い返しました。そしてキリギリスはアリの家の前で凍え死んでしまいました。

これがあらすじですが、結末にはいくつかあり、日本でよく知られている結末は、こうではありません。

「私はあなたに笑われたアリです。遊び呆けて何の備えもしなかったから、こうなったのですよ」と告げ、食べ物を与えます。それを機にキリギリスは心を入れ替え、働くようになりました。というものです。この二つの結末から、二つの教訓が上げられます。一つは「後先を考えずに過ごすとあとで困る」もう一つは「困った人を助ける優しい人になるべき」である。

三つ目の結末のパターンを教えていただきました。アリはキリギリスに、「夏も歌って過ごしていたのだから、冬も歌えばいいんじゃない?」と言います。するとキリギリスは「もう歌うべき歌はすべて歌った。君は僕の亡骸を食べて生き延びればいいよ」と答えました。遊んでいるだけに見えたキリギリスでしたが、すべて見越した上で生きている時間を命がけで楽しんでいたのでした。

「夏に遊んで暮らすと冬に苦しむ」ということだけを考えると、キリギリスは不幸な人生を送ることになったと考えられるかもしれません。しかし、キリギリスにとっては、夏に遊んで暮らすことこそが人生にとって大切だった可能性もあります。ここから考えたのは、三つ目の教訓「幸せの尺度は人によって違う」ということです。キリギリスの「歌うべき歌はすべて歌った」という言葉は、幸せの尺度は個人によって異なり、それぞれの生き方があることを示しているともいえるでしょう。「幸せの基準を他人に求めるな」ということです。

竹内まりやさんの「幸せのものさし」という曲に、
しあわせの基準はかるものさし 自分の心の中にあるのさ Count what you have now, Dont count what you dont have  隣の芝生が青く見えたら この庭に花を植えればいい
とあります。私の好きなフレーズです。

また、現代では、アリは過労死したり、リストラされて貧しい生活、キリギリスは歌やバイオリンの才能を認められて大金持ち、というお話も語られました。実際は、アリのようにコツコツと真面目に働いても、金持ちにはなれないかもしれませんが、コツコツ、ゆっくりと歩くから見えてくるもの、出会えるものもあります。

若い時から夢を追いかけ努力し、認められるキリギリスは、ほんのわずかかもしれません。しかし、いろいろな出会いの中で人とは違った人生を歩むかもしれません。夢が叶わず、アリよりも悲惨な生活に追い込まれているのかもしれません。必ずしも才能、能力、学歴のある者が幸せになり、そうでない者は不幸になるということではありません。

現代日本では、自己否定や「負け組」というレッテルを押しつける風潮があり、多くの人々が「内向き」、内にこもる傾向があるとも言われます。イギリスの哲学者バートランド・ラッセルは『幸福の秘訣はあなたの興味をできる限り幅広くせよ』とも説いており、「不幸の原因は「自己没頭」であり、外に向けて一歩踏み出せ!」としています。みなさんは、どんなアリ、あるいは、どんなキリギリスを目指しますか。

幸福になるためには、自分自身が幸福になると同時に、人々が幸福になれる社会をつくっていかなければなりません。私たちは、自分に対し、社会に対し、そのような働きかけをしていかなければならないのだと思います。創立の精神の一節には「社会に尽くす精神を最も尊重」とあります。皆さん一人ひとりが、社会の一員として生きていることに感謝し、悔いのない充実した人生を送られることを心より願っています。

pagetop